教育

佐々木基之先生は元々小学校の音楽の教師でした。それが、ひょんなことから『音感教育』に出会うのです。
ところが、その音感教育は、『和音聴音』といって、ピアノなどを弾く個人の生徒に対する訓練方法であったのです。このことの素晴らしいことは理解したのですが、いざ実際に学校の授業にその手法を取り入れるとなるとどうにもならないことに気がついたのです。

『耳をひらく』にはこう書いてあります。

集団で和音聴音をやっても余り効果はないし、かといって一人一人に和音聴音をやる時間はありません。何とかしてクラスのみんなを同時に音楽の世界へ連れ込まなければならぬ。どうすればいいのだろうか・・・・・・
その時、ふとひらめいたんです。ひょっと思いついたと言うべきでしょうか。
和音CEG(ハ調のドミソ)をピアノで弾きながら、「E(中の音)をうたえ」「G(上の音)をうたえ」「C(下の音)をうたえ」とやってみたのです。そして次に、全員を三つの組に分けて、その三つの違った音、上・中・下の音を同時にうたわせてみたところ、三つの音が重なった子供の声の美しさに、私は感動で全身がふるえ上がったほどでした。
これが分離唱のはじまりでした。

このことが教育にどのように反映されるのであろうか?

音楽分野

先ず、音楽という分野だけに焦点を当てて言うならば、「ハーモニー感覚」がつくことです。訓練そのものが全体の響きを聴くことですから、「分離唱の方法」でも述べたように、全体の響きの中での自分の響き、という具合に、全体を俯瞰できるようになります。
そしてそれに付随するように、注意力の増進と記憶力の増加です。合唱で言うならば、暗譜をするという作業が消えてしまうような気さえします。人により個人差はあるでしょうが、記憶する速さは格段に変化していくと思います。これは量的に測れるものではありませんが、体験した人が実感として感じられるのではないかと思います。このことは歌唱だけに止まらず、ピアノその他の楽器にも同様の影響を及ぼすものと考えます。

音楽以外の分野

では音楽以外の分野ではどうでしょう。集中力と記憶力は別の分野にも同様に発揮できるものと思われます。
医学的・科学的根拠はありませんが、私は分離唱・和音聴音は右脳の働きを増進させるのではないかと思っています。このことはどこかの研究機関で科学的知見に基づいて研究してもらえたらと思います。
そして、芸術面について言いますと、感受性が非常に高まるように思います。それまで気づかなかったような微妙な変化・出来事に対して敏感に感じ取るようになると思われます。結局これらのことより、人間教育のあらゆる分野に良い影響を及ぼすことでしょう。このことは取りも直さず、教育の基礎に置くことが、その後の子供たちの発達に非常に良い結果をもたらすものと考えております。